鋼材の種類(熱間圧延鋼板編)

 ご無沙汰しております。品質管理課の山口です。今回は趣向を変えて(ネ〇切れ!?)、新人教育用の教材を紹介してみました。興味のある方はお読みください。

 鋼構造建築物で使用される主な鋼材にはS材と呼ばれるSS材、SM材、N材と呼ばれるSN材がある。
 SS、SM、SNはそれぞれSteal+Structure、Steal+Marine、Steal+Newをあらわしている。
 SS材は建築物に関わらず、機械や自動車など構造物に使われる一般的な圧延鋼材で、名称は「一般構造用圧延鋼板」である。
 SM材はもともと船舶用の鋼材として開発された。船舶構造は曲面が多く、鋼板を溶接する必要があり溶接性を重視している。名称は「溶接構造用圧延鋼板」である。後述のSN材の登場により、現在では建築鉄骨には使われていない。
 SN材は建築用に特化した、SS材に代わる新しい鋼材という意味であり、建築構造材としての溶接性が重視されている。名称は「建築構造用圧延鋼板」である。現在もSS材が建築用鋼材として主要な材であるが、徐々にSN材が使われるようになってきており、G梁全体がSN材で設計されたものや、仕口部分がSN材で設計されたものが増えてきている。今日のトレンドとして建築構造体である主柱やG梁にはSS材は使わないという流れになっている。
 代表的な圧延鋼板の種類を表1に示す。

表1 代表的な構造用圧延鋼板

種類の記号 名称 JISと主な用途
SS400 一般構造用圧延鋼板 JIS G3101
低層の建築構造物、橋梁、船舶、車両など
SS490
SM400A/B/C 溶接構造用圧延鋼板 JIS G3106
橋梁、船舶、車両、タンクなど
SM490A/B/C
SN400A/B/C 建築構造用圧延鋼板 JIS G3136
建築構造物
SN490B/C
1)SN材は強度、溶接性のほか、塑性変形性が重視されている。
2)SN490材に「A」が規定されていないのは、溶接性を重視されていない小梁、間柱などに490系を使用するのが稀有であることからである。

図1 軟鋼の応力ーひずみ曲線

 次に400や490といった数字だが、これは「引張強さ」を表している。
 図1は引張応力と鋼の変形の関係示した図(軟鋼の応力ーひずみ曲線)である。鋼を含め、金属は引っ張る力(引張応力と言いう)を加えていくと変形する。図1における領域Aでは、引張応力を解くと元の形に戻る。このような変形を「弾性変形」といい、領域Aを「弾性領域」または「線形変形領域」という。
 更に鋼に加える引張応力を大きくすると図1における領域Bに至り、応力を弱めても元の形に戻らなくなる。この領域では鋼は図1の赤色の破線に従うので、結果的に変形することになる。このような変形を「塑性変形」といい、領域Bを「非弾性領域」または「非線形変形領域」という。
 さらに強大な引張応力を加えると、歪み硬化を生じ引張応力の最大値を経て、破断するが、この引張応力の最大値を「引張強さ」という。
 400系では引張強さは400~510[N/mm2]と規定されており、490系では490~610[N/mm2]と規定されている。
 つまり400系の鋼材より490系の方が高強度の材料であり、この強度は成分を正確に管理することで得られ、当然、490材の方が価格も高くなる。

 SM材やSN材にみられるA、B、Cの意味だが、SM材とSN材では意味が異なる。
 SM材におけるA、B、Cはシャルピー衝撃吸収値による分類をあらわしているが、現在SM材は建築構造用には用いられていないので詳細は割愛する。
 SN材に付けられるA、B、Cは溶接性の優劣を示しており、Aは「さほど溶接性にこだわらない」もしくは溶接の無い場合に使用する材、Bは「ある程度良好な溶接性を有する材」、Cは「Bよりも耐ラメラテア性を向上させた、非常に優れた溶接性を有する材」である。
 SN490Aという規格が設定されていないのは、溶接部が無い、または溶接性を重視しない間柱などに490系材を使用することは稀有であるためである。
 このような特性は高度な成分管理、製造管理によるので、価格もA→B→Cの順に高価になる。

 では、なぜこのように多種多様な鋼材が誕生したのか。
 先に述べたように、それぞれの鋼材は強度と価格が違う。当然、それぞれに適した使用箇所も異なると想像できる。
 予算が潤沢であるからと言って、すべてをSN490Bで作るのはかえって耐震性、安全性を低下させる。大規模地震が発生したとき、鉄骨構造物は変形することでエネルギーを吸収して倒壊を避けるが、変形させたい場所、させたくない場所を明確にしなくてはならない。つまり、弱い鋼材と強い鋼材を適材適所で使用することで建物全体の安全性を高めているのである。同じ鋼材ではどこが大きく変形するのかが分からなくなるからである。


問題1 以下の文の空欄(1)と(2)に正しい言葉を入れなさい。

種類記号「SS400」が表示されているH形鋼がある。このSSは「(1)     」を意味しており、建築物をはじめ機械構造物や自動車など広く一般に使用されている鋼材である。また後に続く「400」は「(2)     」の最小値をあらわしており、鋼材の強度をあらわしている。

(1)の選択肢
 a:スーパー・スチール、b:船舶用(せんぱくよう)スチール、c:スチール・ストラクチャー、d:シンガー・ソングライター
(2)の選択肢
 a:引張強さ、b:破断力、c:転移点、d:降伏点

問題2 SS400とSN490Cの違いと適した使用箇所について、以下の4つの中から正しいものを選びなさい。

A)SS400に比べてSN490Cは高品質な鋼材であるので、十分な施工費のある、豪華な建築物の鉄骨全般に使用されることが多い。

B)SS400はSN490Cと比べ流通量も多く、入手しやすい鋼材であるうえ、強度や溶接性も優れているので、主柱のベースプレートなど高い強度を要求される箇所に使用される。

C)SS400は構造に直接かかわらない、B梁やサブビームに使われることが多い。
一方、SN490Cは価格は高いが、強度と溶接性に優れていることから、主柱のベースプレートやダイヤフラムなど高い強度と溶接性を要求される箇所に使用される。

D)SN490Aは高層建築物の小梁用の鋼材である。



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