抜取り検査とは

お疲れ様です。品質管理課の山口です。
 鉄骨製品検査では全数検査と抜取り検査があります。
 溶接部の検査については社内検査は全数検査、第三者検査(受入検査)では抜取り検査になることが殆どです。
 また寸法精度については大梁・主柱は全数検査、小梁・間柱は抜取り検査となることが殆どです(当社では全数検査します)。
 ここで、はた、と思うことが「抜取り方法はどうするの?」ということです。 溶接部の外観・超音波検査ではAOQLを4.0%、検査水準は第6水準というのが標準ですが、寸法精度については特に明記されていないことが殆どです。
 では、「適当にやればいいじゃん」で良いんでしょうか?良い訳ないですよね。

 ということで、登場するのが「規格」というやつです。日本では日本産業規格(旧、日本工業規格。2019年7月より変わりました)、国際規格としてはISOというのがあります。
抜取り検査については日本産業規格のJIS Z 9002とか9015-1、ISO 2859-1があります。このうちJIS Z 9015-1とISO 2859-1はほぼ同一の内容です。どの規格に従うかは元請さんとの打ち合わせになります。
 そして「規格」に則ってロット(同一または類似規格で製造された製品の集団)のサイズと、サンプルの数を決めて抜取りをすることになります。ただし「規格」には「ロットの設定やサイズの決め方はこういう風にすべきである」という記載があるだけで、実際の権限は当該工程を熟知した人(工場長など)にあります。

 そもそも抜取り検査が登場するにはそれなりの理由があります。製品の内部欠陥を検査するものに破壊検査というのがありますが、全数破壊検査などしたら、もうカタストロフでいつまでたっても製品は出荷されません。
 製品の数が膨大である場合もそうです。むしろこれが抜取り検査を採用する最大の理由です。何百、何千という製品を全数検査(オンライン検査は別として)していたら、製品が出荷されるまでの時間やコストがえらいことになります。
 しかも検査コストを含め、製造コストは製品価格に反映されるので、経済的にも不合理です。
 抜取り検査は正しく用いると非常に便利で現実的な検査ツールです。
 でも抜取りを実施するときには作為が働いては検査の意味がなくなります。検査者が手に取ってジロジロよく見て、ミスのない製品を選んで抜取り検査をしたら、ロット内の不良品率によらず、抜取り検査は合格になってしまいます。サンプルの抜取りはブラックボックスの中のくじを引くような感覚でやらなくてはなりません。これを「無作為抽出」などと言います。
 それでも抜き取ったサンプルの不良品率が母集団であるロットの不良品率と完全に一致するとは限りません。それを図で表現したのが下記になります。
 ロットに対する検査の合否判定規準としてロットの不良率(ロットに含まれる不良品率[%])を p0% としたとき、不良率を横軸に、ロットの合格率を縦軸にとると全数検査結果は図1になります。

 一方、抜取り検査の結果は図2になります。
 このように曲線になる理由は、サンプルに含まれる不良品率とロットの不良品率に「ズレ」があるからです。もっと言うと、例えば真の不良率が5%のロットから何個かサンプルを抽出したとき、サンプルの不良率は3%かもしれないし、はたまた6%かもしれません。


 この曲線は抜き取るサンプルの数をロットのサイズそのものに近づけていくと図1の全数検査に近づきます。
 また、図2ではαを決めると一意的にβが決まってしまうし、その逆も真なり、「こちらを立てれば、あちらが立たず」になります。
 そこで、どこかで生産者も消費者も良しとするか折り合いをつける必要が出てきます。
 そこで、αとβを別々に決めαに対する不良率 p0 より小さい領域はロットは必ず合格させ、βに対する不良率 p1 より大きい領域ではロットは必ず不合格とすることにします。
 では p0 と p1 の間はどうするかというと、再検査することにします。図3のような感じです。


 また、再検査の条件は1回目の検査より厳しくし、そこで合格したロットは合格ロットとして出検し、合格しなかったものは不合格ロットとして全数検査をします。

 抜取り検査の基本はどれだけ「検査コストを現実的な範囲としたうえで、母集団の様態を正確に反映させたサンプルを抽出し、生産者と消費者両方が納得した結果を得る」かにあると言えます。
 この根拠となるのが先述の「規格」というやつです。

 普段から、抜取り検査の意味とか、検査に係る規格なんかを、まめに調べる習慣づけをしておかないと、急に元請さんとかに尋ねられた時に即答できず格好悪い思いをすることになります。

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