鉄骨製品検査を考える

お疲れ様です。品質管理課の山口です。
先日、今シーズンになって初の立会製品検査を受検したのを投稿しました。そこで鉄骨製品検査について、そこはかとなく書き付けてみました。

ファブリケータにおける鉄骨製品検査には実はイロイロあります。鋼材屋さんから材料が納品されたときに実施する「材質検査」から、加工工程で行う寸法精度検査、溶接部外観検査、溶接部超音波探傷検査と進んで行き、塗装前の設計監理者と元請業者による受入検査(立会検査)、塗装後の塗膜厚検査があります。

弊社の古株の方によると「昔はこんなに検査はやらなかった、阪神淡路大震災(たくさんの鉄骨造建物が倒壊した)以降、検査が重視されるようになったのでは」とのこと。

まぁ基本は職人さんの技量と企業モラルでしょうが、いくら丁寧に加工しても人の仕事に「完全」ということはありません。
ということは、検査なしでは出来上がった建物が倒壊せず安全であるかどうかは分からないということになりますよね。

ですから、検査が価値を持ってきます。検査をすることで、不良品を補修したり、全体の不良率を許容範囲にとどめたり(建物を構成する部材はある割合いまでは軽微な不良品が混入していても強度には全く問題はありません)することができます。

それに社内検査実施の大きな意味には自分たちの作った製品の品質を製造部門にフィードバックすることによって自社の製造スキルアップにつなげることが出来ます。

鋼材納品段階で「材質検査」というのがありますが、これにはスチールチェッカーという機器を使いますが、鋼材中のケイ素量で伝導率が変化する性質を利用しています。ですのでそれほど詳しい分析はできません。簡易的な分析装置です。SS400とSN490系の違いくらいしか判りません。溶接に関わる部材にはSN490BとかSN490Cとかの材質にしますが、そのような部材にSS400とかSN400系が混ざっていないかという検査はできます。正確に調べようとすると原子吸光分析とかプラズマ質量分析とか蛍光X線分析とかによらないとデータとして本当に価値のあるものは得られないと思います。それより鋼材に添付されているミルシートの内容を確認するほうが有意義だと思っています。

ということで、今回は「材質検査」は飛ばして社内検査と受入検査について書いてみましたで、興味のある方は読んでみてください。

社内検査

まず基本となる社内検査ですが、原則全数を検査します。記録表に残す部位は以下の7か所です。これは鉄骨工事標準仕様書JASS6(Japanese Architectural Standard Specificationの略)に書かれています。

①柱の長さ
②階高
③仕口部の長さ
④仕口部のせい
⑤柱のせい
⑥梁の長さ
⑦梁のせい

それぞれ1ミリも違っていてはいけないというわけではなくて、数ミリの誤差は認められています。それが「管理許容差」というもので、この範囲内で収まっていれば修正する必要はありません。もう一つは「限界許容差」というもので、この範囲を超えるものについては修正や作り直しが求められます。つまり限界許容差以上の誤差があるものは不良品になります。
では「管理許容差は超えているけど限界許容差には達していない」という場合はどうなるのでしょう。答えはセーフ、つまり廃棄も補修も必要ありません(では意味ないじゃん!と思うかもしれませんが、それはもう少し後の方でお話しします)。
このほかに、ボルト孔の位置と径、ガセットプレートやスチフナー類の取付位置、H型鋼のフランジ耳切の位置・サイズ、胴縁取付けピースの取付位置などをチェックします。
また寸法精度の他、溶接終了後には溶接部外観検査を行います。

受入検査(立会検査)

簡便な受入検査

製作もある程度進むと受入検査(立会検査)が行われます。この検査では工場に設計管理者と元請業者(ゼネコン)担当者が来て製品の加工精度や溶接品質をチェックします。
ファブリケータ(鉄工所)の技量が十分高く且つ元請業者との間で信頼関係が築かれているような場合は製品の中から柱を1~2台、梁を同じく1~2台抽出し、設計管理者と元請担当者の立会の下で寸法測定、溶接外観検査、外部の検査業者による超音波探傷試験を行い、社内検査データが信頼に足ることを承認していただいて、検査合格となります。買主として「あなたの工場で作った製品には不良品は含まれないと信じますよ」ということです。

通常の受入検査

このような簡便な検査方法を取らない場合は通常の検査となります。検査方法は設計図書に書かれていて「書類検査」と「対物検査」を行います。
書類検査には1と2の2種類、対物検査には1から3の3種類あり、多くは「書類検査1」と「対物検査2」の組合せです。

まず書類検査ですが、ここでさっきの「管理許容差を超え限界許容差未満」の話に戻します。書類検査では社内検査の結果が書かれていますが、ロット合格条件は管理許容差を超えた割合が5%以下で且つ限界許容差を超えた割合は0%です。統計処理をすると管理許容差を超えた割合が5%以下のロットでは限界許容差を超える割合は概ね0.3%程度(不良率がこれ以下なら安全は担保できるということでしょう)になることに基づいています。許容差に「限界」と「管理」の2つの数値がある理由です。「限界」はさっき書いた通りですが、「管理」というのは「統計的管理をするための許容差」ということです。

書類検査が合格であれば次に対物検査に進みます。この検査では設計管理者または元請業者が実際の製品の寸法を測定し社内検査の結果に「違い」がないかを調べます。
「違い」としたのは、同じ検体を同じ方法で測定しても検査者が異なれば数値に若干の違いが出てくることはよくあります。
問題は全体的に社内検査と元請業者の測定結果は同じ傾向があるかないかです。これにはt検定とF検定を行い判断します。まぁ詳しいことは別の機会にお話ししますがイメージとしては下のイラストみたいな感じです。〇のほうは多少バラツキはあっても二つの雲マークは同じ傾向にあるのに対し、×のほうは傾向すら異なっているということです。

この対物試験も合格で、元請業者による外観検査も合格となれば晴れて受入検査は合格、オーナーさんが満足できる品質ですということになります。

とにかくきちんと製造していれば、当然受入検査は合格するのですが、万が一「不合格」となった場合は「全数検査」となります。
すべての製品を並べて、設計管理者又は元請担当者が立会の下、寸法精度、溶接外観、超音波探傷試験を実施します。膨大な手間と時間がかかりますし、ファブリケータ側の帰責事由であることから追加費用の請求なんてできません。大赤字です。

製品検査の重要性

製品検査は地味な作業ですが、会社の将来に関わる大事な部門でもあります。
検査を甘くすればその時のコストは圧縮できますが、不良品を沢山出荷してしまえば、次から注文は来なくなるでしょうし、注文が来ても受入検査はぐっと厳しいものとなります。
そうなれば全数検査へ移行する割合も増え収益率は大きく下がるかもしれません。

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